このページの要点
- 委託者指定の専用資材・仕掛品は、終了・仕様変更・撤回で不要になったら委託者が相当な範囲で買取り又は実費負担。見込み超過分は除く。
- 内示(フォーキャスト)に基づき合理的に手配した資材を、精算の対象に含める。
- 最低発注量の義務が難しければ、内示の運用と専用資材の精算で損失を抑える。
- 委託者側は、買取りの対象を承諾を得て調達した原材料に限り、過大調達・無断生産の分を除く。
結論:専用資材の費用は「誰の指定で、何に基づいて手配したか」で負担を決める
製造委託やOEM(委託者のブランドで販売する商品を、別の事業者が製造して供給する取引)では、委託者の商品専用の包材、ラベル、容器、型紙や版、指定の原材料が欠かせません。これらは他の取引先の商品に転用できないことが多く、発注の撤回、仕様の変更、取引の終了があると、手配済みの資材がそのまま損失になります。契約書に何も書いていなければ、その損失は手配した受注者が抱えることになりがちです。
アトラス行政書士法人が作成・レビューしてきた製造委託・OEMの契約書では、この問題を「最低発注量(MOQ)を決めるかどうか」だけで解こうとせず、専用資材を委託者の指定によるものか、発注や内示に基づいて合理的に手配したものかで線を引き、その範囲で委託者が買い取るか実費を負担する、という組み立てをとっています。受注者が見込みを超えて手配した分まで委託者に負わせるのではなく、委託者の指示と結び付いた分だけを精算する考え方です。
このページでは、資材が全損になる仕組み、精算の条項の作り方、内示(フォーキャスト)の扱い、最低発注量の決め方、立場による書き分けを、事務所の書類から整理します。個別契約がいつ成立するかは個別契約の成立とみなし承諾、型や版の所有権はOEM特有の論点(知的財産・金型・横流し)のページで扱います。
撤回・仕様変更・終了で、専用資材が全量廃棄になる仕組み
PB(小売業者が自社の商標を付けて販売する商品)の製造委託基本契約を受注者側でレビューした案件では、三つの条項が組み合わさって、専用資材の損失が受注者に集中する作りになっていました。
第一に、発注は個別契約の成立前であれば委託者がいつでも撤回できるとされていました。承諾の期間を定めた申込みでも、申込者が撤回の権利を留保すれば撤回できるので(民法523条1項ただし書)、この条項自体は有効です。しかし、撤回された場合に受注者が手配済みの資材の費用を請求できる定めはありませんでした。第二に、委託が終了したときの在庫・仕掛品・資材は、原則として受注者の負担で処分すると定められていました。第三に、その例外として「他に転用可能なもの」は扱いが異なるとされていましたが、委託者の標章(商標やロゴ)入りの資材は、別の条項で他への販売・譲渡が禁止されていたため、定義上この例外に当たりません。結局、例外は空振りし、指定の標章入りの資材は全量廃棄になります。
このように、ある条項の例外が別の条項の禁止によって使えなくなる構造は、条文を一つずつ読んでいるだけでは気付きにくいものです。事務所の報告書では、撤回の条、終了時の在庫の条、標章入り資材の販売禁止の条を並べて示し、三つの条がそろったときに何が起きるかを説明しました。
専用資材の損失が受注者に集中する流れ(レビューした原案)
- 内示・発注委託者の予定数量や発注に合わせて、標章入りの包材・ラベルを手配
- 撤回・仕様変更成立前の発注は委託者が撤回できる。費用の精算の定めはない精算なし
- 取引の終了在庫・仕掛品・資材は原則として受注者の負担で処分受注者負担
- 例外の検討「転用可能なもの」は例外だが、標章入り資材は他への販売が禁止例外が空振り
- 結果指定の標章入り資材は全量廃棄、費用は受注者が負担全損
他社の追記をどう読むか、事務所の新設案はどう組んだか
この原案には、先行して取引していた他社が入れた修正として、「指定した特定資材については、手配済みの原材料費を委託者が負担する」という一文が追記されていました。方向性は受注者に有利ですが、事務所はこの追記を五つの点で不十分と分析しました。どの場面で発動するのか(撤回のときか、仕様変更のときか、終了のときか)が分からないこと。「負担」が買取りなのか、損失の補償なのかが分からないこと。「特定資材」が定義されていないこと。別紙にある「原材料等の有償支給は行わない」という定めと衝突すること。そして「生地」という、その他社の商材に固有の言葉が混じっていて、依頼者の商材に当てはまらないことです。
他社の修正をそのまま引き継ぐと、こうした不整合も一緒に引き継ぎます。事務所の新設案では、委託の終了、仕様の変更、発注の撤回によって不要になった、委託者が指定した包材・ラベル・容器・型紙・版その他の専用資材と仕掛品について、協議のうえ委託者が相当な範囲で買い取るか実費を負担する、と定めました。そのうえで、受注者が発注の見込みを超えて調達した部分は除く、というただし書を置いています。
「相当な範囲」をどう決めるかは、契約書の本文で数値を固定しなくても、覚書や議事録のレベルで目安(たとえば直近3か月の平均発注数量)を決めておけば機能します。本文には考え方を書き、数値は運用に合わせて見直せる場所に置く、という分担です。
条文例 第○条(専用資材及び仕掛品の取扱い)
- 本契約の終了、仕様の変更又は発注の撤回により不要となった、甲が指定した包材、ラベル、容器、型紙、版その他本製品に専用の資材(以下「専用資材」という。)及び仕掛品については、甲乙協議のうえ、甲が相当な範囲でこれを買い取り、又はその調達に要した実費を負担する。
- 前項にかかわらず、乙が甲の発注又は甲が示した内示の数量を超えて調達した部分については、甲は買取り及び実費負担の義務を負わない。
- 甲が示した内示に基づき乙が合理的な範囲で手配した専用資材は、第1項の対象に含まれるものとする。
- 第1項の相当な範囲の目安は、甲乙が別途書面により定める。
「専用資材」をこの条で定義し、別紙の有償支給の定めと矛盾しないかを確認します。標章入り資材の販売禁止の条とセットで読み、例外が空振りしないようにします。
内示(フォーキャスト)は、契約のどこに位置付けるか
内示(フォーキャスト)とは、委託者が正式な発注の前に示す予定数量のことです。製造に時間がかかる商品や、資材の調達に期間が必要な商品では、受注者は内示を見て資材を手配します。ところが、PB商品の原案には、内示が契約上どういう意味を持つのかが書かれていませんでした。内示は発注ではないので、内示どおりに発注されなくても委託者は責任を負わない、という扱いになりかねません。
事務所の修正案では、内示に基づいて合理的に手配した資材は実費負担の対象になる、と整理しました。内示そのものに発注と同じ拘束力を持たせるのではなく、内示を信じて行動した受注者の資材費だけを保護する考え方です。委託者にとっても、内示の精度を上げる動機になります。
食品(焼菓子)のOEMで、製造者側の契約書として作成したものでは、製造者が毎月末を基準日として、発注数量・残在庫・翌月に必要な原材料の見込みを委託者に報告する定めを置きました。さらに修正版で、報告を受けてから5営業日以内に異議がなければ、その発注数量を了承したものとみなす、と加えています。内示を委託者から受けるだけでなく、製造者側から見込みを示して確認を取る仕組みで、小規模な製造者でも資材の手配の根拠を残せます。
寄せられた質問と書類での答え方 内示と資材の手配
内示(予定数量)を信じて仕入れた原材料が余ったら、請求できますか。
契約書に内示の扱いがなければ、内示は発注ではないとして請求が難しくなります。内示に基づき合理的な範囲で手配した資材は委託者が実費を負担する、と定めておけば請求の根拠になります。見込みを超えて手配した分は対象外とするのが通常です。
毎月の発注数量について、相手方の確認を取る方法はありますか。
製造者が毎月、発注数量・残在庫・翌月の原材料の見込みを報告し、一定期間内に異議がなければ了承とみなす、という定めを置いた例があります。報告の書式と提出日を決めておくと運用が安定します。
最低発注量(MOQ)を決めるか、決めないか
最低発注量(MOQ)は、1回の発注で受ける最小の数量のことです。PB商品の原案では、受注者は継続して供給する義務を負う一方、委託者には最低発注数量の義務がありませんでした。供給義務だけが片側にある形ですが、事務所はこの点を契約上で是正するのは難しいと判断し、内示の運用で管理する領域と整理しました。大手の委託者が最低発注量の義務を受け入れる見込みは低く、修正の機会は専用資材の精算に使ったほうが実益があるためです。
クラフトビールの受託醸造の契約では、最小の製造単位を1タンク(1バッチ)とし、修正版でその容量も明記しました。年間の製造回数は概ね10回程度を予定するとしつつ、それは目安であり最低発注義務を負わせるものではない、と書いています。醸造の設備は1回の仕込みの量が決まっているので、最小単位は設備から決まる一方、年間の回数まで義務にすると委託者の負担が重くなるためです。製造数量は工程上やむを得ず増減するので、請求は実際の充填数量を基準にする定めも置きました。
工業用化学製品のOEM(ブランド側)では、最低発注数量は設定せず、継続的な供給や定期的な納入、大量の発注は、別途の個別契約や覚書で定めるとしました。ペット用品の卸売契約では、初回の注文だけ最低注文額を設け、2回目以降は1点から受ける形でした。最低発注量は、商材と設備と相手方との力関係で、置く場所も強さも変わります。
最低発注量の定め方(事務所の書類にある例)
| 書類 | 最低発注量 | 余った原材料・資材の扱い |
|---|---|---|
| PB商品の製造委託(受注者側でレビュー) | 委託者の義務なし(受注者は継続供給義務) | 専用資材・仕掛品の買取り又は実費負担を新設提案 |
| クラフトビールの受託醸造 | 1タンク(容量明記)。年10回程度は目安で義務ではない | 中途解約時は支出済みの合理的費用を委託者負担 |
| デザイン商品の製造委託(委託者側) | 別途合意 | 承諾を得て調達した原材料に限り委託者が買取り |
| 焼菓子のOEM(製造者側) | 定めなし(発注後のキャンセル不可・全量買取り) | 未使用分は仕入価格に管理費を加えて委託者が買取り |
| 工業用化学製品のOEM(ブランド側) | 設定しない | 継続供給・大量発注は別途の個別契約・覚書 |
| ペット用品の卸売 | 初回のみ最低注文額 | 定めなし |
立場による書き分けと、受注生産品の取消し
同じ「余った原材料の買取り」でも、製造者側と委託者側では書き方が正反対になります。焼菓子のOEMの製造者側の契約書では、原材料・包材は正式な発注の後にだけ調達し、事前に在庫を持つ義務はないこと、発注後のキャンセルや数量の変更はできず全量を買い取ること、委託者が指定の原材料の発注をやめたときは仕入価格・保管費・損害を全額補償すること、未使用の原材料・包材は仕入価格に合理的な管理費を加えた額で委託者が買い取ること、を定めました。同じ製造者の売買基本契約書でも、委託者の都合で終売が決まった場合は、未使用の原材料・包材を委託者が買い戻すとしています。
デザイン商品の製造委託契約(委託者側)では、最低発注量は別途合意としたうえで、余った原材料の買取りの対象を「受託者が委託者の承諾を得て調達した原材料・部材」に限りました。過大な調達、無断の生産、仕様の誤認などによる余剰には買取義務がないこと、余剰資材を無断で転用・販売してはならないこと、余剰が出たら報告すること、も加えています。委託者の立場から、買取りの範囲を承諾と結び付けて絞り込んだ書き方です。
余った原材料・資材の条項の書き分け
製造者・受注側
- 原材料・包材は正式な発注の後にだけ調達し、事前の在庫義務を負わない。
- 発注後のキャンセル・数量変更は不可、又は着手済みの費用を委託者が負担する。
- 指定原材料の取りやめ・終売では、未使用分を仕入価格+管理費で買い取ってもらう。
- 内示や毎月の報告に基づく手配を、精算の対象に含める。
委託者・ブランド側
- 買取りの対象を、委託者の承諾を得て調達した原材料・部材に限る。
- 過大調達・無断生産・仕様の誤認による余剰は買取りの対象外とする。
- 余剰資材の無断転用・販売を禁じ、報告を義務付ける。
- 標章入り資材は、廃棄の方法と証明まで決めておく。
完成した製品を委託者が引き取らない場合の在庫も、資材と同じく損失の種になります。焼菓子のOEMの製造者側の契約書では、委託者の引取りが遅れている間の保管費は委託者の負担とし、その間の毀損や品質の劣化のリスクは製造者が負わないこと、製造完了から30日を過ぎても引き取られない場合は、通知のうえ製造者が処分でき、その費用は委託者の負担とすることを定めました。賞味期限のある食品では、引取りの遅れがそのまま廃棄に直結するため、保管の期限と処分の権限を先に決めておく必要があります。
標章入りの資材や製品を処分するときの手順も、立場を問わず決めておく価値があります。委託者の標章が付いたものを受注者が勝手に転売すれば、委託者のブランドが傷つきます。一方で、処分の方法が決まっていなければ、受注者はいつまでも保管し続けるしかありません。委託者側の製造委託契約では、試作品・不合格品・仕掛品の流通を禁じ、廃棄したときは廃棄証明や写真を提出させる定めを置きました。受注者側から見ても、処分の方法と証明の手段が決まっていれば、保管の負担から解放される時点がはっきりします。無断製造や横流しの禁止についてはOEM特有の論点のページで詳しく扱います。
設備のように一品ごとに受注生産するものでは、取消しの扱いがさらに重くなります。海外で製造する生産設備を売る売主側の契約書では、契約締結後の仕様変更・数量変更・注文の取消しで売主に生じた損害は買主が賠償し、出荷準備や製造手配の開始後は、買主は売主の書面による承諾なく支払の拒絶・相殺・支払の留保をできない、と定めました。買主の側から解除や取消しをするには売主の書面による承諾が必要で、承諾した場合でも既に発生した製造費・調達費・輸送費と損害は請求できる、としています。クラフトビールの受託醸造の契約でも、委託者の中途解約のときは、受託者が支出済みの原材料の調達・資材の手配・製造準備の合理的な費用と損害を委託者が負担すると定めました。
なお、取適法が適用される製造委託では、受注者の責めに帰すべき理由がないのに給付の内容を変更させ、受注者の利益を不当に害することが禁止されています(取適法5条2項3号)。発注の撤回や仕様の変更そのものが直ちに禁止されるわけではありませんが、手配済みの資材の費用を受注者に負わせたままにする運用は、この定めとの関係で問題になり得ます。適用の判定は取適法と継続的取引の終了のページで扱います。
ヒヤリングで確かめること
ヒヤリング控発注・在庫・専用資材
- 委託者の標章入りの包材・ラベル・容器はありますか。最小の発注単位と1回の金額は。全損になり得る金額の規模を把握し、精算の条項の必要性を判断します。
- 型紙・版・型の製作費は誰が負担していますか。専用資材の精算と、型の所有権の条項をそろえます。
- 内示(予定数量)は届いていますか。内示と実際の発注の差はどのくらいですか。内示に基づく手配を精算の対象にするか、報告と確認の仕組みを置くかを決めます。
- 原材料の調達にかかる期間と、発注後に取り消された経験はありますか。発注の期限と、着手後の取消しの制限を決めます。
- 委託者の都合で終売になったとき、在庫をどうしてきましたか。終売時の買戻しの条項に反映します。
- 相手方の資本金と従業員数は分かりますか。取適法の適用があれば、不当な給付内容の変更との関係を確認します。
起きがちなこと
専用資材の精算は、価格の条項や取引の終わり方とも関係します。価格に資材費が含まれるかどうかは価格・価格改定・支払条件、長く続いた取引を終えるときの予告期間と補償の考え方は取適法と継続的取引の終了のページをご覧ください。
よくあるご質問
発注を取り消された場合、手配済みの専用資材の費用は請求できますか?
契約書の定めによります。成立前の発注は撤回できるという条項だけでは、資材費を請求する根拠がありません。委託の終了・仕様変更・発注の撤回で不要になった委託者指定の専用資材と仕掛品は、委託者が相当な範囲で買い取るか実費を負担する、ただし見込みを超えて調達した分は除く、という条項を置く方法があります。
最低発注量を決めないと、どうなりますか?
受注者だけが継続的な供給義務を負い、委託者は発注しなくても責任を負わない形になり得ます。最低発注量の義務を相手方が受け入れない場合でも、内示に基づく手配の精算や、専用資材の買取りの条項で損失を抑えることができます。
内示(予定数量)を信じて仕入れた原材料が余ったら、どうなりますか?
内示の位置付けが契約になければ、内示は発注ではないとして請求が難しくなります。内示に基づき合理的に手配した資材は実費負担の対象とする、と定めておくのが有効です。製造者が毎月の見込みを報告し、異議がなければ了承とみなす仕組みを置いた例もあります。
委託者の立場で、余った原材料の買取りの範囲を絞るにはどう書けばよいですか?
買取りの対象を、委託者の承諾を得て調達した原材料・部材に限り、過大調達・無断生産・仕様の誤認による余剰は対象外と明記します。余剰資材の無断転用・販売の禁止と、余剰が出たときの報告義務もあわせて置きます。
受注生産の設備を発注後にキャンセルされたら、どうなりますか?
契約書に定めがあればそれに従います。受注生産の設備の売主側の契約書では、締結後の仕様変更・数量変更・取消しによる損害は買主が賠償し、製造手配の開始後は支払の拒絶や相殺をできない、承諾して取り消す場合でも既に発生した製造費・調達費・輸送費は請求できる、と定めた例があります。
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